HeavenlySchoolDays-02




『君たちはいいね』

 いつか、別の世界の自分が言った言葉。
 いいものか。
 自分ひとりに頑張らせて、笑っていたのだ、アイツは。放課後、優しくしてくれたのも嘘。電話で心配してくれたのも嘘。全部、自分を嵌めて楽しむための布石だ。
 それなのに、勝手に、意識して。本当に、腹が立つ。

「いざや、つぶれろ」
 起き抜けに呟いたそれに、返す声があった。
「わかった。後でぺしゃんこにしといてやる」
「っ!?」
 驚いてぱっちりと目を開ければ、何故か静雄の顔を見上げている形だった。
「え?」
「はよ」
「あ、おはよ」
 暢気に挨拶している場合ではない。徐々に状況を把握してきた帝人は顔を青くした。何故か、自分は静雄に膝枕をしてもらっていたのだ。慌てて起き上がろうとするが、「まだ寝てろ」と無理矢理おでこを押さえられ、大人しく頭を静雄の膝に預けるしかない。
「えっと、なにこれ?」
「膝枕。知らねぇのか?」
「いや、知ってるけどさ。・・・なんで?」
「だって、お前、こんなごつごつした所で丸くなって寝てるしよ。クッションだってねぇし、だったら俺の膝でもないよりマシかなって」
「・・・ありがと」
 極論だが、静雄の好意だ。素直に礼を言うと、静雄は「おう、気にすんな」と笑った。
「何かお前、すっげー酷い顔になってんぞ」
「どういう意味だよ」
「何怒ってんだよ。ほら、すっげー隈できてるし、顔も青い」
「・・・・。」
「寝不足だから苛々してんのか?」
「・・・そう、かも」
 わざわざ言わなくてもいいのに、と思いながら、帝人は静雄の視線から逃れるようにごろんと横向きになる。片頬をむにむにと膝に押し付けながら、「ごめん」と帝人は謝った。小さな声だったが、静雄はしっかりその言葉を拾ったらしい。
「あ?何でお前が謝んだよ」
「だって、迷惑かけてるし」
「迷惑じゃねぇよ。つーか、俺が謝るべきだろ」
「なんで?」
「お前一人に全部押し付けちまった」
「・・・・。」
「悪かったな。お前を騙しちまった」
「静雄は違うでしょ」
 彼が、揉め事の原因になるのがいやで、学園祭に関わらないようにしていたことは知っていた。だから、臨也の謀には関係がない。しかし、静雄は首を振った。
「違わねぇよ。ちゃんと参加しなかったのも同罪だろ。俺が出てれば途中でノミ蟲を潰せた」
「・・・静雄は潔いいよね」
「あ?何だって?」
「怒んないでよ。褒めてるんだってば」
 苦笑して、帝人はごろんと身体を反転させ、静雄の腹に抱きつく。自分で勝手に膝枕をしたくせに、静雄が「おい、」と狼狽えた声を出した。
「反省してるんでしょ?責任持って甘んじなよ」
「お前、最近、本当、ちゃっかりしてるよな。開き直りが早すぎるぞ」
「・・・・・。」
「まぁ、いいけどよ」
 ため息を吐いて諦めたらしい静雄に、帝人は内心ホッと息を吐いた。ちょっと、顔を見られたくなかったのだ。不貞寝する前に既にぐちゃぐちゃだったのだから、今はさぞかし酷いに違いない。そこへ、また、嬉しいことを言ってくれるから。
 静雄は人と壁を作るくせに、こちらの壁は簡単に壊してしまう。真っ直ぐで、強くて、いつまで経っても帝人の憧れだ。
 静雄のお陰で、落ち着けた気がする。
 臨也のこと思い出すと、今でも少し苛々するけど、アイツはいつもああだから仕方がないと思えるようになってきた。やはり、寝不足でかなり冷静に考えられなかったらしい。  しかしまだ、眠気はある。すっかり静雄の体温でまどろんだ帝人は、いつもより舌足らずな声で「ねぇ」と静雄に声を掛けた。
「もう少し寝ていい?」
「ああ、構わねぇよ」
「いや、構うから」
「っ!?」
 間髪入れずに突っ込まれ、帝人は静雄の膝から飛び起きた。誰もいないと思ったからこその暴挙だというのに。慌てて身を正すと、声を掛けた人物、新羅は肩を落としてため息を吐いた。
「心配して迎えに来てみれば。なんて暢気な構図なんだろね。吃驚仰天して一回ドア閉めちゃったよ」
「・・・何が心配だよ」
 今度こそ、拗ねたように言うと、新羅は「ごめんね」と謝った。
「本気で怒るとは思ってなかったんだ。いつも通り臨也を叱って、「仕方ないね」って諦めるんだと思ってた」
「いや、どう考えたって怒るでしょ」
「ああ、君の疲労と寝不足を計算に入れてなかったんだろうね。反省してるよ」
 そう言って新羅は大きなビニール袋を帝人に差し出してきた。中型のそれがパンパンになっていて、首を傾げる。
「何?」
「お詫び。さっき買ってきた」
「そういや、それの所為で俺ら遅刻したんだっけ」
 ぼそりと呟かれた静雄の言葉に、少し戸惑う。あの時の怒りが持続しているなら、きっと「物に釣られる訳ないだろ!」と怒鳴っていたかもしれないが、薄っすら見えるそれはパンやら菓子やら清涼飲料水やらドリンク剤やらで、帝人にとっては非常に魅力的だ。少し考えた結果、「許す」と言ってビニール袋をありがたく受け取った。
「調度のど渇いてたんだよね。静雄もなんかいる?」
「俺はいい。つーか、お前が貰ったモンだろ」
「いいじゃない。貰ったものを僕がどうしようが僕の勝手だよ」
「ねぇねぇ、和んでるところ悪いんだけどさ、クラスが大変なことになってるから戻ってきてくれると嬉しいんだけど」
「断る」
 きっぱり即答すると、「あ、やっぱそこはまだ怒ってるんだ」と新羅は感心したように言った。人をなんだと思っているんだと、ムッとした表情になる。
「やだよ。臨也が好きにやってればいいじゃない。僕は明日客として行ってクレーマーになってやるんだから」
「わぁ、考えてるねぇ」
「壊しに行くか?」
「壊さない壊さない。いや、何やる気になってんの、静雄」
「だってノミ蟲喫茶だろ?」
「わぁ・・・行く気すら失せた」
 げんなりとしながらも、ちゃっかり既にパンを頬張ってる帝人に、新羅はため息を吐いた。
「臨也は逃げたよ」
「はぁ!?」
 やるだけやっておいてそれはないだろう。最後まで責任を持て、と、沸々と怒りが湧いて手に力が篭り、パンが少し潰れてしまった。
「お陰で、頼る人間が一人もいなくなっちゃって、クラスは大混乱」
「そのまま臨也の計画通りにやればいいじゃない」
「まぁ、皆だって君を騙したっていう罪悪感はあるからね。途方に暮れてるよ」
「じゃあ先生やればいいのに」
「先生は基本、手を出さないだろ?」
「例外でしょ?学級委員長が抜けたんだから」
「でも実際は何もしていない」
「・・・・。」
 新羅に怒っても仕方がないのだが、さすがに苛立ちを隠せない。人を騙しておいて結局は頼ろうなんて、あまりにも厚顔無恥すぎる。
「やっぱ、壊しとくか?」
「いや、いいって」
 考えるのが面倒だと言わんばかりのストレートな言葉に、帝人は首を振った。確かに、自分の計画は反故されたが、それをやり返すことは望んでいない。それくらいには、あのクラスが好きだった。何せ、強制イベントとはいえ、臨也と静雄の喧嘩にも共に耐え忍んだ仲間なのだ。
 ならば、結局、答えは最初から決まっているのだ。
「・・・わかったよ。どうせ大したことも出来ないけど」
「君がいてくれるだけでいいんだよ」
「うわ、新羅からそんな言葉聞けるとは思わなかった」
「勘違いしないでよ。私の愛はセルティにしか向かないからね。君の気持ちには応えられないよ」
「ちょっと、何で僕がフラれたみたいなことになってんの!」
 立ち上がって尻を叩いてから、「じゃあ行きますか」とビニール袋片手に歩き出す。すっかりいつもの調子に戻った帝人に、新羅も静雄も、内心息を吐いていた。あんなことを切っ掛けに、帝人に壁を作られたらどうしようと思うほど、四人で過ごす時間は、嫌いじゃなかった。
 もっとも、その中の一人は逃げてしまったけれど。

(まぁ、そりゃショックだっただろうね)
 実は、新羅と一緒に臨也も屋上まで来ていた。
 珍しく狼狽した様子の臨也は、「大嫌い」と言われたことが相当堪えていたようだった。どうしたら許してくれるだろうか、思い詰めた表情で開けたドアの先で、帝人が膝枕をされていて、静雄の腰に抱きついていたのだ。それを見た途端、臨也は踵を返して走って行ってしまった。あまりにも素早くて、表情は見れなかったが、ショックを受けたのは間違いないだろう。そんな繊細な部分もあったのかと感心してしまった所為で呼び止めるのを忘れた。
(帝人はそのつもりはないだろうけど、傷心してるところを慰められて静雄に恋した、くらいは勘違いしただろうね)
 新羅も少しは動揺していたようで、最初の一声は少し引きつっていたような気もする。しかし、話してみればいつも通りで、ただ、甘えただけなのかもしれない。
(まったく、どうなることやら)
 教室の前まで着いて、新羅の思考は中断されたのだった。


+ + +


「一人一本ずつ僕に飲み物奢るので許してあげる」

 思いの他、偉そうな学級委員長の言葉に、けれど、皆は一様にして頷いた。そのくらいで戻ってきてくれるなら喜んで、寧ろ何本でも差し出そう。
 帝人は帝人で、「ジュース代が浮く」とほくそ笑んでいたので、まぁ、互いに幸せならいいだろう。帝人も少しは反省していたのだ。あまりにも幼稚だったし、恥ずかしかった。だから、皆の謝罪とジュースで許すことにしたのだ。
 先生にまでちゃっかり「文化祭終わったらクラス全員に焼肉奢ってください」とこちらは非道な要求をしたが、罪悪感たっぷりの顔で素直に頷いていた。完全に帝人に頭が上がらなくなっているようだ。
 そのまま、臨也の計画を引き継いで、生徒に指示を与える。今度は、静雄も一緒に参加した。引き継いでとはいっても、殆んど完成していたに近いから、衣装合わせと内装の最終チェックくらいだった。
(・・・ったく、どこ行ったんだよ)
 自分の好きなようにことを進めたくせに、その本人は未だ帰ってこない。ため息を吐く帝人に、躊躇いがちな声が掛けられ、帝人は顔を引き攣らせた。

「・・・本当に、これしかないの?」
 差し出されたのは先程臨也に見せられたメイド服だった。さすがに、一人で女装しろとはあまりにも酷すぎる。
「僕、いらないから。エプロンでいい」
「じゃあ、俺の使ってよ・・・」
 クラスの一人が自分の執事用衣装を差し出してくる。少し戸惑ったが、「いいよ」と首を振った。またクラス内が重い雰囲気に包まれる。
(え?何これ、僕に気を使って女装しろって?)
 静雄が気を使って「俺の着るか?」と言ってくれたが、そもそも、静雄と帝人ではサイズが違いすぎる。そうだ、と、新羅に「寄越せ」と視線を向けたが、彼はにっこり笑顔で自分の衣装を自らの身体に当てて見せた。譲る気は皆無のようだ。ひくりと口端が引き攣る。
「ああ、いいよ!じゃあいいよ!これ着ればいいんだろ!」
 自棄気味にメイド服を引っ掴んだ帝人は、「気持ち悪いのがいるって言われても知らないから!」と怒ったが、多分、ばれないんじゃないかという言葉は、空気を読んで誰もが飲み込んだのだった。


「ったく、臨也の所為で」
 結局、臨也は戻ってくることなく、前日を終えた。腹が立ったが、気を使ってくれたクラスメイトにファーストフードを奢ってもらい、一時的に機嫌を直した。人間、空腹が一番精神に悪影響を及ぼすのだ。
 しかし、帰宅してひとりになって、ふつふつと怒りが湧いてくる。連絡の一つくらい寄越したらどうだというのだ。
 自分から連絡してやる気はさらさらない。しかし、帝人は携帯電話をずっと見ていた。そんな自分に気がついて、呆然とする。
「ばかじゃないの」
 悔しくて呟いた途端、電話が鳴って、間髪入れずに通話ボタンを押す。
「もしもし!」
『やぁ、早いね。吃驚したよ』
「・・・・。」
 画面を良く見ていなかった所為で新羅だとは気づかなかった。不満げな沈黙の後に、『臨也だと思った?』と余計なことを言ってくるので、うるさいと拗ねたように呟いた。
『君に伝え忘れたことあってさ』
「何」
『君、屋上で静雄に膝枕してもらってて、しかも抱きついてただろ?』
「・・・忘れなよ」
『いやさ、あの時、僕と一緒に臨也も屋上に来てたんだよ』
「はぁ!?」
 思わず大きな声を出してしまい、新羅が『耳が痛い』と文句を言った。
「聞いてないんだけど!」
『だから伝え忘れたって言ったじゃないか』
 新羅だけならまだしも、臨也にまで見られていたなんて。恥ずかしくて耳まで熱くなる。
『でさぁ、ショック受けて逃げちゃったみたいなんだよね』
 確かにショックはショックだろう。男同士でそんなことしているのだから。帝人としては眠くて甘えたかったと言い訳をしたい。いつもあんなことしたいわけじゃない。
『だって、好きな子が嫌いなやつに抱きついてるわけでしょ?』
「は?」
『しかも静雄ってばいつも無自覚にフラグ立てるからねー』
「言ってる意味わかんないんだけど」
『わかってるだろ?君は見ないフリしてるだけだよ』
「っ、」
 いつもの調子でやり過ごそうとしたのに、新羅がそれをぶち壊す。
『そろそろ、答えあげてもいいんじゃない?最初は確かに悪質な人間観察だったけど、今はそうじゃないことくらい、君はわかっているはずだ』
「・・・・。」
『あんなことされても、気になるんだろ?』
「・・・新羅ってさぁ、セルティさん以外興味なさそうなフリして、本っ当、お節介だよね」
『そう?そんなこと言われたの、君が初めてだけどね』
「・・・・。」
 ふう、と小さく息を吐いてから話し出す。
「僕は、このままでいたい」
『どうして?』
「だって、皆で騒いでる時、凄く楽しい。僕と臨也がもし、その、付き合い始めたりして、気まずくなったらやだし、」
 帝人が一番気にしているのはそこだ。臨也のことは、多分好きだ。でも、四人で過ごす空間も大切なのだ。だから、今のままでいたい。
『自分が残酷なことしてるってわかってるのかい?』
 思いの他、冷たい新羅の声に、ビクリと身体を震わせる。
「っ、だ、だって、しょうがないじゃんっ!」
『しょうがなくないよ。結局、君は僕と静雄をダシにして、臨也との関係が変わるのを躊躇ってるだけだ。だって、君たちが付き合った後、どうして僕たちは四人でいられないんだい?』
「そ、れは、」
『俺も静雄も、何も変わらない。ああ、ただ、静雄は君を心配して「別れろ」ってしつこく言うかもしれないけどね』
「・・・・・。」
 何も言わない帝人に、新羅が小さく息を吐く。
『臨也さ、君にしつこく女装を勧めてただろ?』
「う、ん」
『それはね、君のメイド姿が見たいってわけじゃ・・・まあ、それもあるかもしれないけど、他に理由があるんだよ』
「理由・・・?」
『そ。「女の子」とだったら、手、繋いで堂々と歩けるだろ?』
「なっ、」
『実に馬鹿だね。いつもアイツは人の視線なんか気にしないのに。アイツは好きなようにやるヤツだ。なのに、わざわざ手の込んだことしたのは何でだろうね?』
「・・・・。」
 まさか、帝人のためとでも言うのだろうか。素直になれない帝人に口実を与えるため。しかし、そうなのだとすると、つまり、帝人の感情は臨也に筒抜けなわけであって。
 帝人の沈黙に何を感じ取ったか、微かな笑い声が聞こえて、思わず眉を寄せる。
『ま、私からはそれだけ。ちゃんと寝て、明日に備えなよ、メイドさん?』
「うるさい!」
『おやすみ!良い夢を!』
 言いたいことだけ言って、新羅にすぐに切られてしまった。まったく、何て勝手なヤツだとムスくれる。
(いや、勝手なのは、アイツだろ、)
 勝手なこと、計画して。何がサプライズだ。今でも帝人は腹を立てている。でも、それだけでないのもまた事実だ。
 帝人は少し躊躇った後、臨也の電話番号を表示する。
(僕は・・・あそこまで言われて何もしないような、意気地なしじゃない)
 意を決して、通話ボタンを押す。手がむずむずするほどの緊張を強いられてコール音を聴いていたというのに、暫くして留守電に繋げられてしまった。いつもならお前は待機していたのかと言う程素早く取るというのに。
 腹を立てた帝人は、留守電に一言目、「出ろよばかっ!」と怒鳴りつけた。それから、気まずげに咳払いをして声を整える。
「・・・その、明日来なかったら、許さないから。絶対来いよ!絶対だからね!」
 そして内容も確認せずに通話を切った。
 興奮が冷め遣らず、目が冴えてしまっていたが、新羅から釘を刺されたように、今日はしっかりと寝ないと。無理矢理布団に潜り込み、目を瞑る。
「大嫌いだ」と言った時の、臨也の表情が、脳裏に浮かぶ。柘榴色の目が瞠られて、頼りなさげに細められた。まさか、そんな子供染みた言葉が臨也を揺さぶるとは、あまり考えられなかった。一体、どんな気分だっただろう。その後、天敵に甘えているところも目撃して。
「・・・もう、寝らんないじゃん・・・っ!」
 臨也のばか、とありったけの感情を込めて呟き、帝人は硬く目を瞑った。
 けれど、まだまだ疲れが取れていなかった帝人は、暫くして眠りに落ちる。

 すべては、明日だ。


+ + +


 学級委員長様の怒気に、クラス一同は怯えていた。
 しかも、その姿は、メイド。黒を基調にしたそれに、白のレースたっぷりのエプロン。首元にはワインレッドのベルベッドリボン。詰め物までされて、申し訳程度にふくらみのある胸。パニエでふんわりと広がるスカート。さすがに絶対領域とやらは嫌で女子に頼んで黒のタイツを買ってきてもらった。そして、短い髪前髪に合わせて、肩につくかつかないか程の長さのウィッグが着用され、それをカバーするようにレースのカチューシャが頭につけられていた。
 どこからどう見ても申し分ないメイドさん。クラスにいつもより男子が一人足りなくて、女子が多くなった。
しかし、その表情は非常に不機嫌で、手に持っている不似合いな学級名簿をいつ投げつけられるのかと、緊張した雰囲気が漂う。
「・・・折原君は来てないの」
「き、来てません」
 絞り出すような声に、大きなため息を吐き、幾人かの生徒の肩がビクリと揺れた。
「折原君には後で説教するとして、今日は学園祭本番です。皆さん、楽しんで、でも羽目を外しすぎないよう、気をつけてください」
 すっかり板についた学級委員長の挨拶の後、タイムテーブルと店番の最終確認をして、先生の話に入る。その間、帝人は出入り口を睨み付けていたが、ドアが開くことはなかった。

「なんだよ、根性なし」
 学園祭開始の校内放送が流れ、ざわざわと浮き足立つ校内、帝人は小さく文句を言った。教室で暫く臨也を待っていたが、結局現れないので、看板を持って宣伝がてら校内を探して回ることにした。学校に来ているかもわからないが、じっとしているよりましだ。ただ、女装で歩き回るというのが少し堪えたが、宣伝するなら行き過ぎた方がウケはいいだろう。今日ならおおよそのことは許される。
(まさか、あれだけのことしておいて、本当に来ないのかな)
 何もかも、臨也の目論み通り進んでいるというのに。ただ、帝人に関してはいくつか想定外があったようだが。
「・・・・。」
 携帯電話を取り出しても、何の連絡もないことを確認するだけ。その内の何度かは臨也に電話してみたが、やはり留守電に繋がってしまう。
「・・・ばか」
 呟いた直後、肩を叩かれ、吃驚して体が揺れる。もしかして、臨也かもしれない。そう思って思いっきりしかめっ面で振り返った帝人だったが、すぐに呆気に取られる。
「看板持ったメイドさん、アンタがリュウガミネミカド、だよな?」
 にやにやと品の良くない笑み。周囲は関わりたくないのだろう、距離を取っていて、込み合っているはずの廊下に不思議な空間が出来ている。
他校の制服を着ている、明らかに不良と言った風体の四人組の男に、デジャヴを感じ、帝人は顔を引き攣らせた。


+ + +


 臨也はふぅ、と息を吐いた。
 賑わう自分たちの教室の前、痞(つか)えてる原因になってるにも関わらず、何度も手を出したり引っ込めたりして、開けるのを躊躇っていた。
 その愁いを帯びた美少年の表情に、周りにいる女子はうっとりとして、臨也の本性を知る者はぞっとした表情をしている。正直、気持ち悪い。
(あー、もう、くそ、怖い)
 昨日、同様の理由で電話を取ることができず、留守電に残された言葉を恐る恐る聴いた臨也は、帝人の「絶対に来い」という言葉をちゃんと聞いてやって来た。本当は時間通りに来る予定だったが、本気で怒った帝人の顔を思い出し、柄にもなく足が竦んで動けなかったのだ。やっとの思いで教室の前まで来たが、結局、こうやって立ち往生をしている。
(よし、行く・・・!)
 漸く決心をして、ドアにもう一度手を掛けるが、結局三秒待って手を外してしまった。
「鬱陶しいんだよ!ノミ蟲が!」
「ぃだっ!」
 後ろから頭をバチンと叩かれ、ドアに顔面から突っ込む。ガシャンと音を立てたが、幸い、ドアは外れずに済んだ。
「何すんだよ!」
 ぶつけた鼻を押さえながら後ろに立っていた静雄を睨み上げた。執事用のボトムとベストだけを着用し、暑いのか上着を肩に引っ掛けて、後ろで緩く髪をゴムでまとめていた。新たな美少年の登場に周囲が更に浮き足立つ。そんなことは一切お構いなしに、静雄は見下したようにフン、と鼻を鳴らした。
「テメェ、遅れてきやがったくせに、営業妨害までしやがって」
「うるさいなぁ!俺の繊細な心はシズちゃんみたいに野蛮な化物にはわかんないだろ!」
「アァ!?あんだと!?」
「はいはい、そこまでそこまで。今日は暴力なしねー。ホラ入った入った」
 新羅が強引に二人の腕を引っ掴んで中に引き込む。一旦ドアを閉めてから、ひょいっと再び顔を出し、「お騒がせしましたー」とぺこりと頭を下げてからまた教室内へと消えた。

「帝人はいないよ」
 居辛そうにしている臨也に、新羅が声を掛ける。臨也は少しホッとして、いつもの不遜な表情に戻った。
「早く着替えなよ。さっさと土下座しに行って許して貰ってきな」
「うるさいな」
「遅れてきてその態度はないだろ。いいから、稼いで貰わないと」
「・・・・。」
 裏方で着替え始めた臨也の元に、一人の男子生徒が躊躇いがちに話しかけてきた。
「さっき、折原君を訪ねて来た他校生がいたんだけど」
「ああ、いいよ別に。どうせろくでもない用事だろ?」
 そう言って放っておけと手をヒラヒラとさせたが、彼は気まずげに「でも、」と続けた。
「『じゃあ竜ヶ峰帝人はいるか?』って訊かれて・・・」
「!」
 臨也の顔が一気に殺気立つ。男子生徒は怯えたが、新羅が「それで?」と急かすように続きを促す。
「ご、ごめん、良くわからなくて、今校内回ってるって・・・、」
「でも今、女装してるし、大丈夫じゃない?」
「ハッ!?」
 新羅の言葉に、臨也が目を瞠る。実に面白そうに臨也の顔を観察した。
「はは、残念だったね。皆もう見たよ」
「っ!」
 やっぱりもっと早く来ればよかったと、強く歯を食いしばる臨也に、男子生徒はもう一度躊躇いがちに声を掛ける。
「その・・・看板持ってるメイドだっていうのも、教えちゃったんだけど、」
 その言葉を聞いた途端、一瞬男子生徒に拳を振り上げかけたが、動きを止め、舌打ちをして臨也は乱暴に教室から飛び出して行った。
「俺も行く」
「待ちなよ。これ持ってって」
「あ?」
 渡された看板にむすっと眉を寄せる。
「帝人探すついでにこれ持って校内回ってきてよ」
「わかった」
「控えめにね」
「・・・わかった」
「じゃあ行ってらっしゃい」
「・・・・・。」
 頭を掻いて静雄が出て行ってから、新羅が手を叩いて注目を集める。
「馬鹿二人が戻ってきて店ぐちゃぐちゃにされる前に稼いでおくから気合入れてねー!」
 何故彼が統率を取っているのかと内心首を傾げたが、「あ、これは我らが猛獣使いこと学級委員長のお達しだからー」の一言で、皆は頷いた。
 もはや、学級委員長のお言葉は印籠のような役割であるのであった。


+ + +


「こんな所に連れてきてどうするつもりですか」
 空き教室に連れてこられた帝人は、対峙する他校生たちを睨んだ。彼らは相変わらずにやにやと笑っている。
「そう怒んなよ。可愛い顔が台無しじゃん?」
「はぁ?可愛くないし」
 馬鹿じゃないのと、吐き捨てるように言うと、「おお、怖っ!」とからかうような声を上げた。
「つーかさ、『リュウガミネミカド』っつーごつい名前だから男だと思ってたけど、まさか女だったとはな」
「はぁ?!」
 まさか、本気で女だと思っているのだろうか。
「折原臨也と付き合ってるって噂があるんだから、まあ女だよな」
「なんだ、ホモかと思ってたわ」
「でもほっそくてちっちぇえ女だな。こんな貧相なのが趣味なのかよ」
 その言葉にカチンと来る。細いのだって小さいのだって、帝人は気にしている。
「うるさいな!ほっといてよ!っていうか、僕、女じゃないし!」
「うわー、ボク女だよ。頭弱そうだな」
「男女の区別もつかないあんた達に言われたくない!」
「じゃあさあ、本当に男か調べてやろうぜ」
 にやにやと笑う男子生徒に、嫌な予感がして咄嗟に電話を取り出す。この体格差では一対一でも敵いそうもないのに、四人では絶望的だ。
「させるかよ!」
「くそっ!」
 走ってくるのを机と椅子を使って何とか距離を取る。リダイヤルを押して、呼び出したのは臨也だ。
(出てよ・・・!)
 願いが通じたのか、いつものようにワンコールも鳴り終る前に臨也の声が響いた。
『もしもし!帝人君!今どこ!?』
「三の七!早く来いよばかっ!」
 叫ぶと同時に、腕を掴まれて引き倒され、悲鳴を上げた。
『帝人君!?』
「おっ、調度いいじゃん。折原だよ」
「もしもーし、リュウガミネミカドちゃん捕まえましたー。これからメイドさんにご奉仕してもらおうと思いまーす」
『アァ!?ぶっ殺すぞ!』
「おー、こわっ、ミカドちゃんの声聞かせてやるよ。可愛くあんあん言ってね」
 そう言って一人が後ろから帝人を羽交い絞めにして、他の三人が身体に触れてくる。
「このっ、触んな!ふざけんな変態!」
「威勢がいいねぇ。ほら、彼氏にもっと声聞かせてやれよ」
「いやだ、はなせっ」
 太ももを撫でられ、ぞわりと肌が粟立つ。いやだ、気持ち悪い。男なのに、どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ。相手も馬鹿だし。でも、抵抗も出来なくて、悔しくて、涙が出そうになる。
「・・・は、早く来いよ、臨也アァっ!」
 大きな破壊音と共に、前後両方のドアが吹き飛ばされた。あまりの衝撃に、彼らの動きも止まる。
「アァ!?なんだ!?」
 立ち上がった彼らの動きが止まる。
 それぞれのドアに執事。しかも、池袋最強と池袋最凶だ。顔を青くする不良たちとは対照的に、帝人の顔が明るくなる。
「臨也!静雄!」
「お待たせ」
「本当だよばか!」
 怒る帝人に、「ごめんね」と笑いかけた。それから、冷たい目で他校生を見やる。
「覚悟は出来てるんだろうね?」
 その迫力に、彼らも身を竦ませる。しかし、すぐに帝人の腕を掴み盾にした。
「こ、こいつがどうなってもいいのか!?」
「何それ?三流ドラマの犯人役じゃないんだからさ」
「テメェら、俺のダチに手ェ出すたぁ、いい度胸じゃねぇか」
 正に、前門の虎、後門の狼。赤と金の殺気立った視線に、怯えた男たちは狂ったように雄たけびを上げて襲い掛かっていく。
「くたばれ!」
 臨也は身軽に机に登って、蹴りを頭に食らわせ昏倒させる。その横で静雄は持っていた看板をバッドのように振って、同時に二人をなぎ倒した。
「くそっ!来るな!」
「っ!」
 残りの一人が帝人の首を腕で圧迫しながら、ずるずると逃げる。「のやろぉ!」と静雄が唸ったが、臨也が腕で制して「俺にやらせて」と殺気を滲ませた声で言う。
「・・・ヘマしたら即潰すからな」
「するわけないでしょ、この俺が」
「ヘタレて教室にも入れなかったヤツが粋がんな」
「うるさいなあ!ちょっと黙ってよ!」
 ぎゃあぎゃあとやり出した彼らに、帝人は大きくため息を吐いた。後ろの男も「クソ!」と悪態を吐いている。
「ば、馬鹿にしやがって!」
「わっ!」
 帝人に向けてナイフを振り下ろされ、咄嗟に目を瞑る。けれど、衝撃は来ず、代わりに拘束が解かれた。
「ぐあっ!」
 悲鳴に振り返れば、臨也に投げつけられたらしいナイフが刺さり、手から血を流す男の姿があった。
「ぶっ殺してやる」
「ヒッ!」
 そのまま腹を強く蹴りつけ、身体を後方へ吹き飛ばす。窓を開けてそこから男の上半身を投げ出した。
「ちょっ、臨也!」
 さすがにまずいと慌てて臨也を止めようとするが、臨也は手を緩めず、ギリギリと胸倉を掴んで圧迫していた。
「駄目だって!ここ三階だよ!?」
「死ねば二度とこんなことしないでしょ?俺はねぇ、本当にムカついてるんだよ?」
「わ、わかったから!ムカついてるのはわかったから!だから止めて!」
「ヒッ、た、たすけて・・・!」
「・・・もし、帝人君が同じこと言っても止めなかっただろう?なら、俺だって止めなくていいはずだ」
「む、むちゃくちゃだよ臨也!ねえ!僕は平気だったんだから!ね!?」
「落としてやれよ。そしたら頭打って更生すっかもしんねぇだろ?」
「静雄まで!」
「はーい、一対二で突き落とし決定ー」
「ギャアアア!」
「臨也!」
 腕に縋って止めるが、臨也は男の身体を窓から落とした。スローモーションのように足が窓から消え、帝人が顔を真っ青にさせる。
「馬鹿!」
 慌てて身を乗り出した帝人は、呆然とした。ベランダに男の身体は投げ出されていた。ショックで気を失っているようだった。
「あ・・・、」
 気が動転するあまり、ベランダの存在を忘れていた。へたり込みそうになるのを、臨也が咄嗟に支える。
「ごめんね、吃驚した?」
 見上げた臨也の顔は、いつもの悪戯っ子のような意地悪な顔で。

「臨也アアアアァァ!」

 その直後、景気のいい平手打ちの音が、教室内に響いたのだった。


+ + +


 その後、新羅を呼び出し、後片付けを新羅と静雄に任せ、とりあえず屋上へと避難させられた。完全に腰を抜かしてしまった所為で、臨也に抱き上げられての移動だった。当然、それまでの道のりには人がいて、しかも、メイドと執事がそんなことになっていれば、当然注目の的である。何より、目を惹いたのは見目麗しい執事の頬にくっきりと残る大きな手形。どう見ても痛いはずなのに、彼の顔は実にすがすがしい笑顔だった。恥ずかしくて、帝人は、必死で臨也の肩口で顔を隠した。

「最悪、本当、信じらんない」
 羞恥で僅かに鼻声になる帝人を足の間に座らせ、臨也は嬉しそうに後ろから帝人を抱きしめていた。
「俺は最高。夢みたい」
「そのまま寝てろばか!」
「一緒に寝る?」
 艶を含んだ声を耳に吹き込まれ、更に顔が赤くなった。
「ばか!しね!」
 しかし、どんなに罵っても、臨也はでれでれとだらしない顔をするばかりだ。それを見て、また帝人はぎゅっと身を固くする。
「着てくれたんだね」
「だ、だって、これしかないって言うから!」
 だったら、着なければいい。そんなのはわかっている。ただの言い訳だ。けれど、臨也は追求してくることなく、帝人の乱れた髪を梳いた。
「可愛いよ」
「っ!」
 さっきもあの男たちに言われて、凄く腹が立ったのに、臨也から言われると、恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだ。「うぅ」と呻いて、帝人はぼふっと臨也の胸に顔を埋めた。
「ねぇ、後でデートしよ?手繋いで。好きなところ連れてってあげる。何でも買ってあげる」
「ね?」と甘く甘く囁かれ、帝人は顔は熱いし、心臓はドキドキとして、どうしたらいいかわからず、ぎゅっと目を瞑る。
「好きだよ」
「っ、」
「好き」
「い、いい加減にしろよ!」
「やだよ。もうすぐで落ちそうなのに、何で止めなきゃいけないのさ」
「ちがう!そんなんじゃない!」
「そうなの?」
 寂しそうな声を出されて、絶対わざとだとわかっているのに、ぐっと言葉に詰まる。脳裏に、新羅の言葉が思い出された。そろそろ答えをあげろと言われていた。気づいたのは、いつだったか忘れた。確かに、目を背けていた。皆がバラバラになるのが怖かった。でも、そんなことないって教えてくれたし、それに、もう、背けられないほど、臨也のことを意識している。
 いつも通り、突っ撥ねたいのを堪え、小さく頭を振った。
「すき」
 小さくて、自分にしか聞こえないような声。でも、一度口にしたら、止まらなくなった。
「僕も、好きだよ、臨也」
 緊張で掠れて、情けない。こんなんで本当に嫌われないのだろうか。幻滅されないだろうか。不安で仕方がない。それでも、帝人には「好き」と伝える以外、どうしたらいいかわからず、顔を真っ赤にして困り果てたようにもう一度「好き」と言った。
 臨也が、熱を吐き出すように、大きなため息を吐く。それに反応して、帝人はビクリと肩を揺らす。やはり、呆れられたのだろうか。けれど、盗み見た臨也の顔は赤くて、嬉しそうに口元が緩んでいた。
「・・・・ねぇ、帝人君、キスしていい?」
「っ」
「間違えた。していい?じゃなくて、しよ」
「ちょっ、待っ、」
「だめ、待たない、する」
「ん、む・・・っ」
 最初は合わせるだけだったが、すぐに物足りなくなってきたのか、音を立てて帝人の唇に吸い付く。初めての感覚に、どうしたらいいかわからず、帝人は身体を震わせた。
「かわいい、」
「ふ・・・んぅっ、」
「みかど、」
 今までに聞いたこともないような甘い声で、呼び捨てで呼ばれ、ますます心臓が痛くなる。助けを求めるように臨也の首に手を回し、ぎゅうと抱きしめた。
「い、ざやぁ・・・っ!」
 慣れないキスの合間、舌足らずに呼ばれ、眩暈がする。
(やっと、)
 薄っすらと目を開けば、とろとろに蕩けた表情の帝人。幸福と欲望で、臨也の身体が熱を増す。

「ねぇ、やっぱ帰ろうよ」
「ふぇ・・・?」
 漸く解放され、ぼんやりとする帝人の背を優しくなでながら、警戒されないように優しく、優しく囁く。
「俺ん家、来ない?」
「ひぅ、」
 帝人の脚を撫でると、普段は絶対聞けないような甘い悲鳴が上がり、ぺろりと唇を舐める。
「ね・・・?」
「や、いざ、」
「優しくするから、みかど」
「っ!」
 ほら、後もう一押し。そう思って、とびきり甘く囁こうとしたが、頭に衝撃が走り、代わりに蛙が潰れたような声を上げた。

「何してんだ、この助平野郎!」
「し、しずお・・・っ!」
 仁王立ちの静雄の顔には、いくつもの青筋が浮かんでいた。帝人はハッとして慌ててスカートの裾を直す。完全に油断していたせいか、臨也はもろに食らったらしく、目尻に涙を浮かべて静雄を睨み上げた。
「ったいなぁ!何すんだよ!」
「何すんだはこっちのセリフだ!帝人を家に連れ込んでどうする気だぁ?アア!?」
「そんなのセッ、ちょ、うわっ!」
「それ以上しゃべるな!」
「そっちが訊いたんだろ!」
 立ち上がって胸倉を掴み合い、言い争う二人を呆然と座り込んだまま見上げる帝人の傍に、新羅が笑いながら寄って来た。
「ははっ、いつも通りだね」
「新羅・・・。」
「ね?変わらないだろ?」
「・・・・。」
「どうせ、ずっとこのままさ」
「・・・そうだね」
 新羅の言葉に、嬉しそうに頷く帝人。しかし、彼らの話を聞いていた臨也が反論する。
「冗談じゃないよ!俺たちのラブラブな学校生活は!?」
「あー、ないない」
「お前には訊いてない!」
「ないない」
「ちょっ、帝人君!?ねぇ!さっきまでのあまーい雰囲気は!?」
「夢見てんじゃねぇよノミ蟲がぁ!そんなに眠いなら俺が叩き起こしてやる!そして死ね!」
「お前が死ね!あーもう、マジふざけんなアァっ!」

 漸く通じたはずなのに。臨也の切実な叫びが虚しく屋上に木霊したのだった。







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後半です。おめでとう臨也!
続きが見たいとお言葉を頂きましてありがとうございました! 2011/11/13

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