OVER




※いざやとみかどが同い年の学パロです。




熱くなる目頭を誤魔化すように黒板を見ていたが、そろそろ限界のようで視界が滲む。
ああ、情けない。
だから振られるんだと、帝人はぐしぐしと目元を擦った。

突然、こつんと紙くずが机に投げられた。こんなことをするのはアイツしかいない。彼の方を視線だけ動かしてみると彼は面白そうにその赤眼を細め、ひらひらと手を振った。
(授業中!)
口パクで批難するように訴えたが、彼は構わず人差し指で紙くずを指した。
帝人はしぶしぶ紙くずを開くと、「また振られたの?」と書かれていた。ああ、そうだ。告白まではうまくいったのに、振られたさ。しかも、月一ペースで、だ。
惚れっぽい自分も悪いと思うが、今までお付き合いした子は誰も大切にしているつもりだった。一体何に幻滅されているのか、自分でもわからない。
あいつには「下手なんじゃないの?」とからかわれたが、そんな段階にすら行ったことがない。キスだって誰ともしていないのだ。
何が悪いのか、帝人にはまったくわからずお手上げだ。
だというのに、悪友はその度に帝人の傷を抉ってくるようなことをする。
(・・・なんか腹立ってきた)
顔だってアイドルでもモデルでもできそうなレベルの癖に、まるで女っ気のないやつ。いや、きっと帝人が知らないだけだ。
学校内にいないだけで、もしかしたら、大人の女性とお付き合いしているのかもしれない。そう勘繰るくらいには彼は同性の自分から見ても色気があった。
本当に悔しい。
理不尽な怒りに震えていると、もう一度紙くずが飛んできた。
睨み付けるが、彼は笑うばかり。仕方なしにもう一度紙くずを広げると、「昼休みに話し聞くよ」と書かれていた。
多分、面白がって聞いているだけだと思う。でも、溜め込むにはあまりにも遣る瀬無くて。
再びちらりと伺った彼は、既に黒板に向き直っていた。


 + + +


「で、今度は何?」

宣言通り、昼休み。
見た目は抜群の腐れ縁、折原臨也は面白いと隠しもせずその赤眼を輝かせていた。
拗ねたようにずるずるとだらしなく音を立ててパックのカフェを飲んでいた帝人は、ちらりと臨也に目を向けてから、ぶすっとして口を開いた。
「・・・平凡すぎて魅力がないんだって」
「ぶっ、」
「笑わないでよ!僕だって非凡になれるならなりたいよ!」
そう、例えば静雄とか。
言った途端に臨也の顔が不機嫌丸出しになる。
「何で化物になんかなりたいの」
「失礼な事言うなよ。だって力持ちだしかっこいいし」
「は?君は馬鹿?力持ちなんて可愛い言い方すんなよ。そんなレベルじゃないっつーの!っていうかかっこいいってのなら俺の方がでしょ!?」
「君は中身最悪だからプラマイマイナスじゃない?」
「そんなに駄目!?」
「人が失恋する度に笑う人間が駄目じゃない理由を教えて欲しいね!」
臨也を睨み上げてから、帝人は飲み終わったパックを畳んだ。その様子はやはり少し消沈しているようだ。臨也が帝人の隣りに腰を下ろす。
「そんなにフラれるんならもう告白しなきゃ良いじゃん」
「は!?僕にこの若さで諦めろと!?」
「そ。俺が一緒にいてあげるからさ」
ごろにゃんとふざけて頭を擦り寄せて来る臨也に、帝人は懸命に抵抗して頭を押し退けようとする。
「気持ち悪いな。君とずっと一緒なんて冗談じゃないよ」
けれど、言葉とは裏腹に、帝人の耳は赤くなっていた。人に好かれる事は嬉しい。臨也があまりにも性格が悪いからついつい突き放す様な事ばかりを言ってしまうが、こうやって一緒に過ごすくらいには帝人は彼の事を好いていた。
素直じゃない帝人の様子を見ながら、臨也は出来るだけ甘やかした声を出す。
「ま、君がまたフラれたら俺が慰めてあげるよ」
「またって言うなよ!成功すること願ってよ!ほんっと!友達甲斐がないな!」
臨也の言葉に腹を立てていた帝人は、彼の目が鋭く細められた事に気がついていない。
(友達、ね)
「あ、」
ポケットの中の携帯が震えた事に気がつき、チェックをした臨也は「ごめん、」と立ち上がった。急に遠ざかった温もりに、物足りなさを感じ、その感情に帝人は動揺した。
「ちょっと用事あったんだ。先教室帰ってて」
「あ、うん」
じゃあ、と見送ってから、帝人は汚れるのも構わず乱暴に寝転んだ。
「………うそだろ」
そうだ、気のせいに違いない。あんな性格破綻したヤツなんか。
(フラれて人恋しくなってるだけだ。あんな熱っ苦しいのくっつかれてなにがいいの)
大きくため息を吐いて、夏の青空を見上げる。
「……そうだ、傷ついたって言ってアイス奢らせよ」
ああやってからかうくせに、失恋した帝人に、臨也は優しく接することもあった。腹いせにたかってやろうと目論む帝人は、何もわかっていなかった。
臨也の事も、彼のやっている事も。


 + + +


「やあ、お待たせ」
廊下で待つ女の子ににこやかに声を掛けた。彼女は臨也を認めて頬を赤く染めた。
「ううん。ねぇ、折原君、今日の放課後空いてる?」
わかりやすい好意に、臨也は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「悪いけど君に割ける時間はないよ」
冷たい声に女子生徒は怯えるように震えた。
「何でそんな事言うの?竜ヶ峰君と別れたら付き合ってくれるって…」
「そんなの信じてたの?馬鹿じゃないの?そんな理由で人をフるような人間、誰が好きになるって言うの?」
「っ、ひどい!」
「ははっ!みっともない顔!超不細工!」
ケラケラと笑う臨也に、女子生徒が涙声で「竜ヶ峰君に話すから!」と言うと、彼はピタリと笑うのを止めた。ナイフのように鋭い赤眼に女子生徒が怯む。
「本当に馬鹿な女だね。そんなことしたら自分を貶めるってわからないの?それとも俺が皆に話してあげようか?付き合ってた相手フって俺に乗り換えようとしたってね!」
「っ!」
「今なら見逃してあげるけど?」
臨也の言葉に彼女は泣きながら去って行った。それを冷たく見送る。
「ったく、なんで帝人君は毎回女の趣味悪いかな」
まあお陰ですぐに破局させられるけど。
「それに比べて、俺はこんなに健気なのにね」

早く俺が『傍』にいる事に気がついてくれないかなあ!
そうしたら、抱きしめて、キスをして、それ以上の事も沢山してあげる。優しくして優しくして、たっぷり甘やかしてあげる。

甘えて来る帝人を想像して、蕩ける様な笑みを浮かべる。しかし、凶器を孕んだそれに、ずっと一緒にいながら帝人は気づかない。

影はすぐ傍に。




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バレたら修羅場ですね!(…) 2011/07/31

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